2009年06月21日

Tunnel

いつになってもこのトンネルは終わらなかった。

ハンドルを持つ手に思わず力が入った。
僕は時速40キロで延々と緩い右カーブの続くトンネルを運転している。
このトンネルに入ったのが一体いつだったのかは覚えていない。リピートでかけ続けているqueenの曲を口ずさみながら、僕は長野の実家近くのスキー場に向かって車を走らせていただけだった。
何度も通った高速道路。いちいちトンネルとかパーキングの事まで考えながらは運転していない。

トンネルに入ってから、やけに長いなと思ってダッシュボードの時計を見たのが11時25分。今は11時40分だ。
僕の知っている限り長野の実家までの高速道路上に、出るのに最低15分もかかるトンネルはない。
僕は一体どこを走っているのだろうか。新しく工事中のトンネルに間違って入ってしまったんだろうか。そしてこのトンネルはどうしてこうも同じアールを描いて延々と右にカーブしているのか。

幾ら考えても分からなかった。
時計のデジタル表示が11時41分に変わった。

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2009年06月12日

Tunnel - 7

「・・・今何時?」

「2時過ぎ」

「とっくに到着してなきゃいけない時間ね」

「あいつには連絡入れているから大丈夫でしょ。もうじきJAFも来るよ」

「一日損したわ。全く」

 

路肩に止まった車の中で、僕たちはJAFを待ちながら無駄話をしていた。
周りは山林で人の気配もない。15分に1台ぐらい、地元の人の車が通り過ぎるだけだ。カーナビで現在位置が分かったからJAFを呼べたようなものの、もし無かったらお手上げだったに違いない。

気がついた時、僕たちは車の中にいた。

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2009年05月04日

Tunnel-6

彼は一瞬、自分の身に何が起きたのか分からなかったようだった。

数秒後、ようやく事態に気づき慌てふためいている彼を尻目に、彼女はますます彼の背中に回した腕に力を入れた。

「ち、ちょっとどうしたの?いきなり何?」

「いいから黙って」と彼女の冷静な声が響いた。

「わ、わかったから。とりあえず肩が痛い、なんか硬いものが当ってるって!」

そう聞くと彼女はわずかに腕に込めた力を抜き、彼の肩に食い込んでいたショルダーバックのベルトのバックルの位置をずらした。
しかし彼女は相変わらず、彼を抱きしめたままだった。

「私がこのトンネルに入った事があるって、さっき言ったよね」と彼女は切り出した。

「うん、小さいときに来たんだよねここに」

「そう、こんな事になるまで今まですっかり忘れてたけど、私はここに来たことがある。
そして、私は今みたいにお母さんに抱きしめられてた」

顔を彼の頬に寄せ、彼女は続ける。

「お母さんは私のことを抱きしめて、怖くないよって何度も言っていた。ユキちゃん怖くないからね、怖いことは何もないからねって繰り返してた。
私は泣いていたけど、その言葉を聞いて、お母さんに抱きしめられて安心した。お母さんと一緒なら、この暗いトンネルも大丈夫だって思った」

「つまり、」彼は今やぴったりくっついている彼女に言った。

「俺のことを元気付けようとしてくれているの?」

「いいから黙って」と彼女は言った。

「お母さんは私を抱きしめて、怖くないって言った。大丈夫だって言った。
そして、私たちはトンネルから出てきた」

「あんたはとにかく黙って。動かないで。私がいるから。私がトンネルからあんたを出してあげるから」

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2008年12月15日

Tunnel-5

悪意。

あまり日頃使わない言葉だ。特に僕みたいに毎日を草食動物のようにおとなしく過ごしているだけの大学生にとっては。
しかし今は違う。僕は今悪意をひしひしと感じる。それはまるで空気の中にひっそりと紛れ込んだ毒ガスのように、僕たちの周りに忍び寄り、呼吸にまぎれて体内に侵入し、肺を満たす。

強烈な息苦しさを感じる。強い圧迫感。
まるでトンネルそのものに押しつぶされそうな感じだ。じわじわと周りから締め付けられるような。

「・・・歩こう」

僕はようやくそう言った。そう言わなければ足を踏み出すことが出来なかった。
そう、僕たちはいつの間にか止まっていたのだ。本当に自分たちでも気づかないうちに、足が止まっていたのだ。

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2008年03月31日

Tunnel-4

そう、私はこのトンネルを知っている。

正確に言うと、私はこのトンネルを知っていた事を知っている。私は昔、まだ記憶も確かでないほどの幼い頃にこのトンネルに入り、出たことがある。
その時の事は今ではすっかり忘れていて、詳細なんて何一つ覚えていないけれども、ふと急にその事をさっき思い出した。

そう、私はこのトンネルを通り抜けたことがあるのだ。遠い昔に、母と一緒に。

 

「・・・知っているってどういう意味?」
彼が尋ねてきた。

「私、このトンネルに入ったことがある。小さい頃に」

「という事は、このトンネルが一体何なのか知っているって事?」

「そうじゃない」
私は首を振った。

「私は小さい頃に、母と一緒にこのトンネルに入って、出てきた事がある。私が覚えているのはそれだけ。このトンネルが何なのか、どうすれば出られるのかは全然覚えていない。」

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