2012年02月21日

歯医者記 -人はいかにして歯医者に通うか-5

先日突然痛くなった右下の歯と、それに付随して思いがけずに始まった歯医者通い(どうやら爆弾は用意周到に設置されていたようだったが)。

平日の朝、開院と同時に治療をしてもらって、その足で仕事に向かう。そんな感じで僕は通院を続けた。


 


現在僕の歯は「とりあえずお掃除」という段階にいるらしい。
席に座ると先生は挨拶もそこそこに前回詰めた詰め物をほじくり出し、針金に脱脂綿を巻き付けて僕の歯の中に突っ込む。

最初のうちは血がべっとり着いているが、数回繰り返すうちに脱脂綿は膿と血をきれいに取ってくれる。

そうすると注射器で薬を注入し、再びセメントみたいので塞いで終わりだ。所要時間約10分。

神経が抜かれているので痛みはない。しかしやはり恐怖感はある。

 


三回目か四回目の治療の時、いつも通り手早く治療を終えた先生は器具をカチャカチャと置きながらにこやかに言った。

「じゃあ、次回は親知らずを抜きましょうか」

 

来た。

 

敵がついに牙を剥いてきたのである。

膿んだ個所の治療なんて、彼からしたら小手調べに過ぎない。あくまで本丸は僕の口中に眠る四本の親知らずなのである。

「いや、でも先生「上の歯ならすぐ抜けますから。抜きましょう」

有無を言わせぬその勢い。

畳み掛けるその口調に、「どうせ虫歯だしな…」と弱気になった僕はついうなずいてしまったのだった。


「じゃあ次回!次回抜きますから!」

先生は堅く念押しして去っていった。

 
 
 

そして登場したのはいつぞやの歯科衛生士のお姉さんである。

最初の地獄の検査より全く音沙汰がなかったためすっかり忘れていたが、歯の治療と共に歯石の除去も継続的に行う事になっていたのだ。

「じゃあ(忘れてたけど)歯石の掃除をしますね〜」

彼女は歯科でよく使っているドリルみたいな器具のアタッチメントを手際よく取り替え、口を開けっ放しの僕の上に身を乗り出した。

 


 

 鈍いモーター音が響き、僕の歯に回転する何かが押し付けられる。

しかし、今の所痛みは特にないので安心する。

そうやってしばらく掃除を続けた後、彼女はドリルを置いた。僕はこれで終わりかとほっと一息ついたのだが、続けて彼女は凶悪な形態をした鉛筆の親玉、もしくは彫刻刀の親戚みたいなものを手にした。

つまりは機械で出来ない細かい汚れは手作業で取ってくれるのだ。

普段ならその丁寧な仕事を賞賛する所だが、いざ患者として口中にその鋭利なものを突っ込まれる側になると「適当でいいから!」と言いたくなる。

ここに来て数回目の非常に悪い予感がしてきた。

 


しかし彼女はそんな僕の気持ちには一切頓着せず、歯と歯の隙間にそいつを押し当てた。

カリっという音がして、歯石が削れる。

そして勢い余ったそいつはすぐ側の僕の歯肉に突き刺さった。

ものすごく痛い。刺さる度びくっと体が動くくらい痛い。

しかし彼女は頓着しない。次々に歯石を削り落とし、その際にかなりの確率で歯肉に穴を開けてくる。

頑固な歯石の場合には彼女も力が入るので、つい勢いも余りがちになり、突き刺さる深さも増している。

これを拷問と言わずして、何と言えばいいのだろう。

「あ〜、力を抜いて楽にしてくださいね」

無理。絶対無理。

 


我慢に我慢を重ねて、やっと治療の終わりにこぎつけた。ずっと力を入れていたため、全身の疲労がすごい。

「ちょっと血が出ているから」と言われて口を濯いだ所、吐き出した水は真っ赤に染まっていた。

「じゃあ、しばらくしてからもう一回今日と同じ掃除をしましょうね」

彼女は器具を片付けながらにこやかに言った。

親知らずの抜歯と歯石の除去。僕の口は果たして耐え抜けるのだろうか…。

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2012年02月01日

歯医者記 -人はいかにして歯医者に通うか-4

さて、後に残されたのは僕と歯科衛生士の二人である。

ちなみにこの歯科衛生士はけっこうかわいい女の子だ。
若干うきうきしている僕に彼女は再び口を開けるように指示をし、椅子を倒した。

「じゃあ、これから歯周病のチェックをしますね〜」

そう言うと彼女は先程の針金状の器具を手に取り、歯茎と歯の隙間に突っ込んだ。

 

瞬間ざくっと痛みが走り、思わず呻く。
しかし彼女は気にかける事もなく、続けざまに数回針金を突っ込む。

要は歯肉の盛り上がり具合を確認する検査らしいのだが、それにしても荒っぽい。
刺されるたびにずきっと痛みが走るので顔をしかめざるを得ない。痛みに堪えるため左手の甲をギュッとつねる。

 

段々と冷汗が流れてくる。

しかもなんと、この検査は歯を一本ずつ調べていくのだ。

一本の歯につき数回針金を突っ込むので、都合最低数十回は痛みを我慢しなくてはならない。

 

 

 

気が遠くなるような十数分間が過ぎた後、「はい、終わりました」の声をかけられて僕はのろのろと起き上がった。
シャツの背中は冷汗でぐっしょりだ。

水をもらって口を漱ぐと水には少なからぬ血が混じっていた。

「歯周病もそうですけど、歯石が溜まっていますね。次からは歯と歯茎の隙間の歯石まで取りましょう」

何だか恐ろしい事になってきたようである。
とにかく今は「歯と歯肉の間」というフレーズは聞きたくない。

 

 受付で代金を払い、次回の予約をする。治療時間は30分程だった。

これからあとどれくらいかかるのか…?
思いがけずに始まった歯医者通いの日々にため息をついて、とりあえず僕は仕事に向かったのだった。
(朝一で行ったからこれから仕事なのだ)

posted by やどかり at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月29日

歯医者記 -人はいかにして歯医者に通うか-3

親知らず。

 

だいたい二十歳ぐらいにようやく生えてくるので親もそれを知らないためにそんな名前がついているが、僕の場合もはや本人も生えている事を知らなかった。

レントゲンの結果、どうやら僕の口中には親知らずが四本あるそうである。
うち左下一本は肉に埋まったままであり、右下は半分顔を出している。上二本はしっかり顔を出しているが両方とも虫歯らしい。

「親知らずが生えているといろいろ大変だからね。抜きましょう

なにか雑草を抜くかのようにあっさりと言うが、相手は僕の歯だ。
それに親知らずを抜く大変さはいろいろと伝聞で伝え聞いている。抜歯後に張れて何も食べられなくなったとか、抜くのに何時間もかかったとか、ひどいのは途中で麻酔が切れて死ぬかと思ったとか、いろいろだ。

 

 

断固拒否!という顔をしている僕を見て、先生は説得を始めた。

「親知らずが生えていると大変なんですよ。上二本はそもそも虫歯だし、右下も中途半端に肉がかぶってると虫歯になりやすいですよ。虫歯になると痛みますからね、早めに処置しましょう」

つまり先生の言うには
【中途半端に肉のかぶった親知らずは虫歯になりやすい】→
【親知らずが虫歯になると痛い】→
【だったら虫歯になる前に抜こう!】という事である。

 しかしこれは「予防」という名を借りた排除ではないか。

痛くもなっていない歯を「痛くなると大変だから」と抜いてしまう、まるで強者アメリカの論理である。
そもそも8020運動(80歳まで20本の歯を残そう運動)の立場はどうなるのだ?

 

 

しかし先生も熱心だ。営業マンのように抜歯のメリットをたたみかけてくる。

夜もよく寝られず痛みに苦しんでかなり消耗した僕は既に「とりあえずこの場が納まれば何でもいい」状態に陥っており、はあそうですねぇと返事を濁してその場を乗り切った。

先生ははかばかしい返事を得られなかった事に若干不満だったようだが、説得は次の機会に回す事にしたらしい。
歯科衛生士を呼ぶと指示を出し、後はよろしくとばかりに去っていった。

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2012年01月23日

歯医者記 -人はいかにして歯医者に通うか-2

朝の9時半。職場の近くにある歯医者が開院するのと同時に僕は受付に向かった。

「歯が痛いんです」問診表を書き終えると僕は受付の歯科衛生士に訴えた。
しかし彼女は僕の半日分の思いの詰まった訴えを聞き流し、じゃあレントゲン撮りますね〜と言った。さすがプロは慣れたものである。

妙に尖っていて口の中で収まりの悪いプラスチックの器具をくわえ、レントゲンを撮る。
いつも思うのだが、患者に鉛のベストを着せると看護婦や歯科衛生士がそそくさと部屋から立ち去るのはいかがなものだろうか。
いや確かに低量とは言え被爆は防いだほうがいいんだけど、取り残される方の気にもなってほしい。

痛む歯を抱えつつレントゲンを撮り終え、ようやく診察となる。
患者の恐怖心を最大限にあおりたてるために造られたのような例の「診察台」に横になる。

そして登場したのが僕のこの苦痛を魔法のように取り去ってくれる(はずの)歯医者の先生である。

 

「えーっとねぇ、膿んでますねぇ」

それが僕を一両日に渡り苦しめた痛みの正体だった。

先生の説明では、昔右下の歯を治療した際に歯医者が薬を奥まで入れなかったらしく、今になってそこが膿んだ。
しかも上から銀冠を被せているために膿の逃げ場がなく、結果歯及び歯茎の中の圧力が高まり痛くなったという事らしい。

「じゃあ膿取りますねぇ」先生は一通り説明すると、数知れぬ子供たちを恐怖のどん底に突き落としてきた悪魔の兵器「キュウィーーンって回るあいつ」でもって、文字通りキュウィーーンとやり始めた。

キュウィーーンがしばし続き銀冠が外されると(この辺は自分では見えないので想像)、先生は耳かきの先が硬い針金状になったような器具を取り出し、先に脱脂綿をくるくると巻き付けた。

何となくすごく嫌な予感がする。そんな尖ったものを口の中に入れるのはすごく危険な気がする。
そもそもまだ麻酔もしていないのだ。

 

しかし先生は全く躊躇する事なく、僕の悪い想像通りに針金を銀冠の取れた歯の中に突っ込み、ぐりぐりと掻き回した。

突然の激痛と声にならない悶絶…となるはずだが、それはなかった。
膿を抑えていた銀冠が取れ膿を抜いているので、むしろ痛みは緩和されている。

「あー、溜まってますねぇ」と言いながら先生は血と膿で汚れた脱脂綿を取り換えてはぐりぐりを繰り返す。
かなりぐりぐりしているのは口中に伝わる感覚からわかるものの、別に痛みはない。なにか狐につままれた気分だ。

しかしなんて事はない。よく考えたら以前の治療の際に神経を抜いたのだった。

ひとしきり痛みのないぐりぐりを繰り返しようやく膿が取れたのか、先生は注射器で歯の中に薬を注入し、白いセメントで蓋をした。

 

「ひとまず膿は取りましたから、また来て下さい。何回か繰り返して綺麗にしましょう」

溜まっていた膿を取り、圧力が下がったためようやく痛みは消えた。歯医者様様である。

感謝のあまり思わず拝みそうになった所で先生が話を進めた。
「ただあなたの場合、違う問題があるんですよね。親知らずが

これが降って湧いた思いがけない地獄の始まりだった。

posted by やどかり at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月18日

歯医者記 -人はいかにして歯医者に通うか-1

「…歯が痛い」  

僕がある日我慢出来ない程ではないが、かと言って無視出来るレベルではない痛みを口中の右下に感じたのは、まだまだ夏の暑さの残る九月のある日の事だった。

 我慢出来ない訳ではない。しかし痛みが気になって何一つ手につかない。
その日はたまたま休みだったので、僕は全く集中力の欠けた状態のままのろのろと家事をこなし、夕食の準備をした。

 

しかしそのうちに歯の痛みは「無視出来ないレベル」から「我慢出来ないレベル」まで徐々にランクアップを果たしてきた。
最初のうちは現実から目を背ける事で状況をごまかしていたが、さすがに限界を向かえつつある。
なので僕は対抗策を打ち出した。

薬の投与である。

僕は二十数年の人生で薬と名の付くものは風邪薬くらいしか飲んで来なかったのだが、妻が頭痛持ちの生粋のバファリニストの為、現在我が家にはバファリンが常備されている。
(ちなみにバファリニストとは、あらゆる病をバファリンによって治そうとする狂信的人物の総称である

大人なので雄々しくバファリンを二錠飲み下し、薬が効くまでの30分間を素知らぬふりでやり過ごす。

 そして30分後。
歯の痛みは「我慢出来ないレベル」から「まあ痛いかなレベル」にまで戦線を縮小した。こちらの勝利だ。
僕の意識の最前線から撤退していった歯の痛みを厳しく監視しつつ、僕は有意義に残りの休日を過ごした。

 

 しかし、奴らの撤退はあくまで戦略的、一時的なものだったのである。

夕食後、歯の痛みは再度攻撃を仕掛けてきた。
今度は昼間の攻撃に比べ本腰の入った攻撃で、テレビを見ていても本を読んでいても僕の意識の過半を支配してくる。痛い。ただひたすら右下の歯がズキズキジンジンと痛い。イタイ。
完全に痛みに蹂躙された僕の意識は、ようやく明日こそ歯医者に行こうと決意していた。

このままではどう考えても眠れないので、寝る30分前に本日2度目のバファリンを投与した。

バファリンは使用説明書によると一日2回までの投与制限がある。
それを越えると何がどうなってしまうのかは書いてないが、ただでさえ薬なんて滅多に飲まないのだからここは大人しく説明書に従う事にする。
つまり現在2回目の投与した以上、次の投与は翌日の朝以降までは空けるべきなのだ。

 夜という人が一番リラックスするべき時間帯、僕はバファリンの効力をただただ信じて奴らの攻撃を忍ぶしかない。
どこまでいけるかは全く自信がないが、とにかくこの一晩が勝負なのだ。
今晩さえしのげれば明日には朝一番で歯医者に行ける。やれば出来る。そう信じて僕は床についた。

 

 

明け方。僕は歯の痛みに耐え兼ねて布団の上で呆然と時が過ぎるのを待っていた。

 

〜続く〜

posted by やどかり at 23:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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