2008年03月17日

Tunnel-3

こんな所にいるのは御免だ。
僕は心の中でその事だけを何度も何度も繰り返した。そうする事で自分の中の決意を決して揺るがないよう固めていくかのように。

しかし、行動はそれに伴わなかった。
ハンドルから離した手は力を失い、もう一度運転しようと思っているのにも拘らず、肘から先が全く動かなくなっていた。
心臓は早鐘のように拍動し、筋肉は強張り、震えていた。頭はこの状況を打開しろと何度も叫んでいるのに、体は恐怖のためにその命令を無視しているかのようだった。
ただ、ドライバーの常からか、ブレーキだけはこれ以上ないほどに強く踏みつけていた。

 

「・・・行こう」
と彼女がつぶやいた。

「行こう。ここにいてもどうにもならない。どうせなら進んでみよう」

彼女はそう言うと、僕の太ももに手を載せた。
その行動で、僕の体にかけられた魔法が解けたかのように、僕は体に力が入っていくのを感じた。
そろそろと手を上に上げ、ハンドルを握った。

 

「行くって、どっちに行くの?」

「・・・わかんない。とにかくここにいてもどうにもならないから」

「そりゃ、確かにそうなんだけどさ」
彼女も不安なのだ、怖いのだ。僕は当然の事実に今頃気づいた。

「とりあえず、このまま進んでみよう」
僕はそう言った。彼女もうなずいた。

僕は痛いぐらいに踏みつけていたブレーキから足を離すと、慎重にさっきと同じように車を走らせていった。
どこに進んでいるのか、その先に出口があるのかも分からずに。

 

10分ぐらい走った時だった。

道はずっと同じ右曲がり。曲がり加減も一緒だ。等間隔で並ぶ壁のオレンジ色の灯りとあいまって、まるで延々と同じテープを再生しているかのような単調さだった。
最初のうちは何一つ見逃すまいと目を凝らしていた運転の緊張も、体の強張りが次第に解けるのと同時に散漫になっていた。

車のスピードがスルスルっと落ちた。

僕はとっさにアクセルを踏み込んだ。しかしスピードは相変わらず落ちていく。
ギアをドライブから入れ替えてもダメだ。

そして車は止まった。実にあっさりと。

 

「・・・ちょっと、どうしたの?」
彼女は信じられないと言うように僕を見ながらそう言った。

「えっと・・・わからない」
僕は上の空で返事をしながら、何故突然車が止まったのか必死に考えた。
エンジン系統の故障か、ブレーキがいかれたのか、とにかく何か理由があるんだ。それをどうにかしないと・・・。

そう考えながら僕は運転席のメーターを眺めた。
見た途端、理由はすぐに分かった。燃料計がEnptyを示していたのだ。

「ガス欠だ・・・」

「ちょっと・・・。信じられない・・・」
彼女はそう言うとヘットレストに頭を預けた。

「どうしてこんな時にガス欠なんかになるのよ。ほんと信じられない」

「うん・・・。でも・・・」

「確かガソリンは東京出るときに満タンにしたはずだよ。こんなに早くなくなるなんか信じられない」

そう言うと、彼女はぶるっと震えた。

「つまり、これもトンネルの仕業って事ね・・・。私たちが出られないように」

 

それから彼女はつぶやいた。

「私、このトンネル知ってるの」

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posted by やどかり at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 手習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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