2005年02月25日

Shelter From The Storm

 モスバーガーのパッケージというのはもちろんモスバーガーの中に入っているミートソースが垂れないようにあのような袋状になっているわけで、別に顔の下半分を隠して食べるのがおしゃれだからという理由でなっているわけではないのだろうと思う。
あのミートソースというのは厄介でそのほかのトマトやらパティやらは手である程度挟み込むことによって落下を防ぐ事が出来るのだが、ミートソースと玉葱のみじん切りだけはどうしても購買者の意思に逆らって重力に身を任せて下に落ちようとする。それでは味が変わってしまうし食べずらく汚れてしまうからといってあのような二辺が閉じられた袋になっているのだ。
だからボクはモスバーガーを食べる際にはいつも袋の奥にまで入ってしまっているミートソースも残さず食べることにしている。

 ボクは大統領官邸への襲撃計画の最終調整をしている「赤い翼」の幹部たちの隣でそんなことを考えていた。

 彼らは今は明日に迫った襲撃のために全ての脳細胞を振り分けているらしく、ボクが夢見心地でぼ〜っとしていることなんか興味ないらしかった。ボクとしてもそれならそのほうが都合がいいのであえて何も言わなかった。
ボクは彼らの計画がうまく行ってくれる事に越したことはないし、もし駄目でもその時にはボクは前回と同じように警官隊とドンパチやるだけだったからだ。

 時計の針が11時を指して少し経ったぐらいの時に彼らの間の尽きぬ議論もようやく終わりを見せたようだった。彼らは互いに革命の大義への忠誠を確認した後、いつものようにコップの中の冷え切ったコーヒーを飲み干した。
不思議なことにこの「赤い翼」という団体は決してアルコール類を飲まない。思索の妨げになるからだということだった。

 「最終確認ですが」と隣に座っていた幹部がボクに向かって言い始めたが、ボクは手で制し、大きく伸びをした。

 「あなたには大事な任務があるのですよ。それを忠実にこなす為に確認が必要ないというのですか?」と幹部はいきまいて言った。

 「確かに完璧にミッションを達成する為には確認をすることは重要だ」とボクは言った。

 「しかし私は既に全てのミッションの内容を把握している。それは私の部下も同じだ。私達は完璧に任務をこなす事が出来る」

 「それとも」とボクは続けた。

 「あなた方は私たちが信用できないとでも言うのかね?ローザンヌで君たちが全滅しなかったのは一体誰のおかげだと思っているんだ?」

 彼らは黙りこむとそのまま会議を解散させた。彼らの顔には等しくボクへの不安とその戦力に対しての恐怖があった。
ボクがいればこの計画は100%成し遂げる事が出来る。しかしボクがもし裏切れば、彼らに残された道は電柱に吊るされる事だけだった。

 「一つだけいいかな?」とボクは言った。

 「私がいる指揮所だが、この場所にしたい」とボクは地図のある一点を指差した。

 「しかし、それは事前に・・・」と隣の席の幹部が言い始めたが、今度彼を制したのはボクではなく奥に座っていた幹事長だった。

 「理由を聞こうか」と彼は独特の響きを持つ低い声を出した。

 「単純なことです」とボクは続けた。

 「ここからなら大統領官邸が肉眼で確認でき、さらに私の部隊を展開させる場所に近い。おそらく向こうが所持している武器は当分の間は軽機関銃以上の域を出ないでしょう。それならこの場所から指揮したほうが敵の位置関係も把握できる。
 私達は最初の3分で敵の組織的抵抗を壊滅させるつもりです。そのためには私自らが前線の部下に指示を出すことも必要となる。何よりも、私自身が前線に出ることなく私達の部下を戦わせることなど卑怯以外の何物でもない」

 その一言は彼ら幹部にとっては皮肉と受け取られたようだった。

 ボクは更に続けた。

 「敵がロケット砲でも持ち出してきたらさすがに退避しますが、そうならないためにあなたたちはこうやって戦略を練ってきたのでしょう?ですから私はここで指揮をします」

 「で、そこは一体どのような場所なのだ?交番かい?」と幹事長は他の幹部に聞いた。それは自分の意に従わないボクへのあてつけでもあり、そしてそれを認めざるを得ない自分への不満でもあった。

 「その場所は・・・ファーストフード店です」と部下から報告を受けた幹部の1人が言った。

 「いいでしょう。私達は作戦開始の2分前にそのファーストフード店を占拠します。もちろん危害を加えずに。そしてそのままそこを指揮所として作戦を続行します」とボクは言った。

 「…構わん。好きにしたまえ」と幹事長は言った。

 今度こそ本当に会議は解散したようだった。幹部たちはみな革命へ燃える心と明日への不安を抱えながら部屋を出て行った。ボクは彼らが出て行くのを見送ると自分も出て行くためにマフラーとコートを取った。

 「一つ質問してもいいかな?」とボクと同じように残っていた幹事長が言った。

 「何でもどうぞ」とボクは言った。

 「本当は何でそこを指揮所にしたかったんだ?」と彼は地図をじっと見ながら言った。

 「事前に決めておいた指揮所のほうが戦術的にいい場所のはずだ。
さっき君はもっともらしくこの場所の利点を述べたが、別にそれは他の場所でも良い位の利点だ。特にここでなくてはいけないという理由にはならない。」

 彼は地図から目を上げると、ボクをじっと見ながら続けた。

 「そして何よりも、君は自分の身を危険に晒すような真似は決してしない」

 ボクはマフラーを巻きながら言った。

 「おそらく作戦が始まればその周辺の都市機能は麻痺するでしょう。交通、情報、サービス…。インフラ関係も戦闘によりストップしてしまうかもしれません。
もしそうなったら、私はどうやってハンバーガーを食べればいいんでしょうか?戦闘中にもし私がハンバーガーを食べたくて仕方なくなったとしても、そんな時にハンバーガーを売ってくれるような店があると思いますか?」

 「ハンバーガーを食べながら戦闘を指揮するつもりなのか?」と幹事長は言った。どうもそんな考えは革命の大義にはないようだった。

 「それは分かりませんよ。その時の気分ですから」

 「でも」ボクはコートを羽織ながら続けた。

 「この国の歴史が変わる時に、ど真ん中に位置するファーストフードの店が嵐からの隠れ場所として、全く平穏にハンバーガーを売っているなんて、面白くありませんか?」

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posted by やどかり at 18:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 手習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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