先日突然痛くなった右下の歯と、それに付随して思いがけずに始まった歯医者通い(どうやら爆弾は用意周到に設置されていたようだったが)。
平日の朝、開院と同時に治療をしてもらって、その足で仕事に向かう。そんな感じで僕は通院を続けた。
現在僕の歯は「とりあえずお掃除」という段階にいるらしい。
席に座ると先生は挨拶もそこそこに前回詰めた詰め物をほじくり出し、針金に脱脂綿を巻き付けて僕の歯の中に突っ込む。
最初のうちは血がべっとり着いているが、数回繰り返すうちに脱脂綿は膿と血をきれいに取ってくれる。
神経が抜かれているので痛みはない。しかしやはり恐怖感はある。
三回目か四回目の治療の時、いつも通り手早く治療を終えた先生は器具をカチャカチャと置きながらにこやかに言った。
「じゃあ、次回は親知らずを抜きましょうか」
来た。
敵がついに牙を剥いてきたのである。
「いや、でも先生「上の歯ならすぐ抜けますから。抜きましょう」
有無を言わせぬその勢い。
畳み掛けるその口調に、「どうせ虫歯だしな…」と弱気になった僕はついうなずいてしまったのだった。
「じゃあ次回!次回抜きますから!」
先生は堅く念押しして去っていった。
そして登場したのはいつぞやの歯科衛生士のお姉さんである。
最初の地獄の検査より全く音沙汰がなかったためすっかり忘れていたが、歯の治療と共に歯石の除去も継続的に行う事になっていたのだ。
「じゃあ(忘れてたけど)歯石の掃除をしますね〜」
彼女は歯科でよく使っているドリルみたいな器具のアタッチメントを手際よく取り替え、口を開けっ放しの僕の上に身を乗り出した。
しかし、今の所痛みは特にないので安心する。
そうやってしばらく掃除を続けた後、彼女はドリルを置いた。僕はこれで終わりかとほっと一息ついたのだが、続けて彼女は凶悪な形態をした鉛筆の親玉、もしくは彫刻刀の親戚みたいなものを手にした。
つまりは機械で出来ない細かい汚れは手作業で取ってくれるのだ。
普段ならその丁寧な仕事を賞賛する所だが、いざ患者として口中にその鋭利なものを突っ込まれる側になると「適当でいいから!」と言いたくなる。ここに来て数回目の非常に悪い予感がしてきた。
しかし彼女はそんな僕の気持ちには一切頓着せず、歯と歯の隙間にそいつを押し当てた。
カリっという音がして、歯石が削れる。
そして勢い余ったそいつはすぐ側の僕の歯肉に突き刺さった。
ものすごく痛い。刺さる度びくっと体が動くくらい痛い。
しかし彼女は頓着しない。次々に歯石を削り落とし、その際にかなりの確率で歯肉に穴を開けてくる。
頑固な歯石の場合には彼女も力が入るので、つい勢いも余りがちになり、突き刺さる深さも増している。これを拷問と言わずして、何と言えばいいのだろう。
「あ〜、力を抜いて楽にしてくださいね」
無理。絶対無理。
我慢に我慢を重ねて、やっと治療の終わりにこぎつけた。ずっと力を入れていたため、全身の疲労がすごい。
「ちょっと血が出ているから」と言われて口を濯いだ所、吐き出した水は真っ赤に染まっていた。
「じゃあ、しばらくしてからもう一回今日と同じ掃除をしましょうね」
彼女は器具を片付けながらにこやかに言った。
親知らずの抜歯と歯石の除去。僕の口は果たして耐え抜けるのだろうか…。

